江國香織さん『落下する夕方』を読むと、すごく切ない気持ちになります。
なぜなら、登場人物の誰にも共感できないのに、丁寧に繊細に書かれているので、いつの間にか自分のことのように感じ、心に刺さるからです。
江國香織さんの不思議な世界は、寂しい気持ちになるのに、心地よいです。
『落下する夕方』は、切ない気持ちになりたい人、恋をしている人、かつて恋をしていた人…みんなに読んでほしい一冊です。
読むと『華子』の魅力にどうしようもなく惹かれます。
目次
『落下する夕方』の簡単なあらすじ
梨果は8年間同棲していた健吾に、突然別れを告げられる。
家を出てしまった健吾の代わりに、なぜか健吾の新しい恋人・華子が押しかけてくる。
梨果は愛する人の心を奪った華子のことを憎めず、彼女の魅力に取りつかれていく。
すると健吾も華子を追って梨果のもとへ来るようになり…。
梨果が静かにゆっくり失恋していく様子と、奇妙な三角関係を描いた恋愛小説。
華子の魅力に振り回される人たち
梨果は自分と別れた元カレの恋人・華子と一緒に暮らすうちに、華子の魅力に取りつかれていきます。
元カレの恋人なんて、憎らしく思ってしまいそうなのに、華子のことは憎く思えない。
それどころか惹かれていってしまう。
それほど、華子は魅力的な女性です。
1ミリグラムの誤差もなく、正しい重さの「おかえりなさい」を言う華子。
自由でつかみどころがなくて、明るいのに絶望している華子。
新聞紙の上に横になって、焼き芋になったみたいという華子。
男性は、華子みたいな女性を愛してしまうんだろうなと思います。
決して自分のものにならず、誰のものにもならず、誰かのポケットに入って休みたいと言う華子のことを。
華子にどうしようもなく惹かれるのは、華子が絶望しているから
華子がなぜ絶望していたのかわかりませんが、みんなが華子を愛し、執着してしまうのは、華子が絶望しているからだと思います。
「私はいつも逃げてばっかり」
むしろたのしそうに、うたうように華子はそう言った。
「そういう人生なの、逃げまわって逃げまわって、でも結局絶対逃げられない」
『落下する夕方』p230より引用
華子は梨果にこう言います。
みんなが華子に惹かれて、愛してしまうのも、執着してしまうのも、華子が絶望しているから。
田辺聖子さんの『ジョゼと虎と魚たち』のジョゼが魅力的なのも、ジョセが絶望しているからだと思います。
冷静で、明晰で、しずかで、あかるくて、絶望しているものは美しい。
昼と夜の間の夕方みたいに。
雨上がりの澄んだ空気みたいに。
「華子になりたい」と思う人も多いと思います。
たくさんの男性に愛されて、執着される華子。
でも華子はそんな風に執着されるのも、期待されるのも辛かったんだろうな。
私はむしろ、梨果の方が、強くて自由な気がします。
元カレを忘れられず、元カレの愛した人と過ごす梨果の方が、ずっと希望があるように感じます。
『落下する夕方』映画も観たい
1998年に映画化されているんですが、梨果を原田知世さん、華子を菅野美穂さん、健吾を渡部篤郎さんが演じておられます。
そらまめ
素晴らしすぎるキャスティング!
観るしかないですね。
#U-NEXTで見れます
「透明感あふれる作品なんだろうな」と、観る前から思っています。
菅野美穂さんが演じる華子を観てみたいです。